診療科目

呼吸器外科

はじめに

平成22年4月より呼吸器外科の診療を開始します。
呼吸器外科は肺・縦隔の腫瘍性疾患を主な対象疾患として扱います。具体的には原発性肺癌、転移性肺腫瘍などの悪性疾患、縦隔腫瘍では胸腺腫などの手術を行います。また、良性疾患としては気胸(肺臓がパンクしてしぼむ)が対象となります。

今後の方針

肺癌の患者さんは増加の一途をたどっています。現時点で肺癌に対し最も根治性が高い(治る可能性が高い)のは外科治療ですが、多くの患者さんが手術の対象になりません。それは、肺癌が見つかったとき既に進行していて手術を受けるには時期が遅い方が多いためです。
繰り返し言われていますが「早期発見、早期治療」の重要性が痛感されます。本院では充分なインフォームドコンセントのもと、安全な外科治療に努めていきます。
また、内科、放射線科と連携し集学的治療を行い、治療成績・予後の改善を図っていきます。

具体的疾患

原発性肺癌と転移性肺癌について簡単に説明します。
不明な点、詳しい説明をご希望の方はご遠慮なくお問い合わせ下さい。

肺癌について 1. 肺癌はなぜできるか? 2. 肺癌の種類 3. 肺癌の症状
4. 病期分類 5. 肺癌の治療 6. 治療の副作用
転移性肺腫瘍について 病理 治療

肺癌について

  1. 肺癌はなぜできるか?

    • 肺癌とは?
      肺癌は、正常な肺の細胞に遺伝子の変異が蓄積して生まれた異常な細胞の集まりです。ですから、癌は「遺伝子の病気」と言われています。異常な細胞は肺の中で秩序なく増殖するため、腫瘍と呼ばれる異常細胞の塊を作ります。
      はじめは肺の中でのみ増殖しますが、遺伝子の変異がさらに蓄積すると他の臓器へも転移して増殖するようになります。
    • 肺癌になりやすいかどうか
      肺癌になりやすいかどうかは、各個人で違っています。発癌物質の摂取(環境因子)は肺癌になりやすいかどうかを決める大きな要因です。特に、タバコの中には遺伝子の変異を誘発する発癌物質が数多く含まれているため、喫煙は肺癌になる率を大きく増加させる主要な環境要因となっています。
      しかし、タバコを吸わない人にも肺癌はできるので、私たちの環境中にはまだ見つかっていない発がん物質があると予想されます。
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  3. 肺癌の種類

    • 癌ができた場所による分類
      肺の中のどこに癌ができたかによって、その癌の特徴や治療法が異なることがあります。肺の入り口(肺門)近くにできたものを肺門型(中心型)、肺門から遠いところにできたものを肺野型(末梢型)と呼びます。
      また、肺そのものの中には大きな癌はないのに、胸にたまった水(胸水)の中に顕微鏡で癌細胞が見つかるものは、胸水型肺癌と呼ばれることがあります。
    • 顕微鏡で見たかたちによる分類(病理組織分類)
      肺癌を顕微鏡で調べると、癌細胞やその集団の形によってさまざまな類型に分けることができます。どの病理組織型分類に当てはまる癌であるかによって、その癌の広がりの早さや治療法が異なる場合があります。
      とくに「小細胞癌」に対して、それ以外の組織型の癌を「非小細胞癌」と総称して区別することが一般的に行われています。非小細胞癌のなかでは、腺癌、扁平上皮癌、大細胞癌などが頻度の高い組織型です。
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  5. 肺癌の症状

    • 原発巣による症状
      1. 一般症状
        肺癌患者さんの全身症状は、他の癌の患者さんの症状と大きな相違はありません。体重減少、倦怠感、食欲不振、発熱などが見られます。
        発熱は、腫瘍による気管支の閉塞による閉塞性肺炎、無気肺に起因するもの、扁平上皮癌で見られるように大きな腫瘍の内部壊死による発熱、感染による発熱などが見られます。臨床症状としては、他の肺疾患の症状と同じで、咳嗽、喀痰、血痰、呼吸困難があります。
        これらの症状は、大きな気管支に発生した腫瘍に特徴的な症状で、気管支の狭窄や閉塞に起因する症状です。主気管支を完全に閉塞すると完全無気肺になり、高度な呼吸困難を訴えます。血痰は、腫瘍表面からの出血に起因するもので、高齢者や高度喫煙者などのハイリスクグループでは肺癌発見の重要な症候と考えられます。
        肺の末梢に発生した腫瘍では無症状である場合が多く、画像診断でしか診断できない場合があります。
      2. 局所浸潤による症状
        肺の末梢に発生した肺癌が壁側胸膜や胸壁に浸潤した場合は、局所の疼痛を認めます。
        肺尖部に発生した腫瘍が胸壁に浸潤している場合はパンコースト腫瘍と呼ばれ、肋間神経、腕神経叢、交感神経を浸潤するため肩の痛みや上肢のしびれ、またホルネル症候群を認めます。
        ホルネル症候群とは、眼瞼下垂、縮瞳、眼球陥凹の3つの症状を示す徴候です。原発腫瘍およびリンパ節転移が発声を司る反回神経に浸潤した場倍は、声がかすれ(嗄声)、食べ物を誤嚥する場合があります。
        右側に発生した腫瘍が、頭部や上肢からの血液が還ってくる上大静脈に浸潤し閉塞した場合には、顔面や上肢に血液のうっ血による高度な浮腫を呈する上大静脈症候群が見られます。胸壁の側副血行路が発達するとうっ血が改善され浮腫は消退していきます。
    • 遠隔転移巣による症状
      肺癌は、原発巣による症状のほかに遠隔転移巣による多彩な症状が見られます。転移しやすい臓器としては、脳、骨、肝臓、副腎があります。
      1. 脳転移
        脳に転移すると、頭痛、吐き気、発語障害、意識障害、精神障害、片麻痺(半身不随)、歩行障害などの症状が見られます。
      2. 骨転移
        骨に転移すると、局所の疼痛、四肢の麻痺、神経痛、排尿障害などが認められ、病的骨折(癌の転移による骨折)を起こすこともあります。脊椎骨への転移が多く、コルセットなどの装具により加重がかからないようにします。
      3. 肝転移
        転移巣が小さい場合は症状を示しませんが、大きな転移巣で肝門部を閉塞する場合には黄疸が見られる場合もあります。
      4. 副腎転移
        著しい食欲の低下や、体重減少が見られます。
    • その他の症状
      筋症状、ばち指、ホルモン産生による症状
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  7. 病期分類

    肺癌と診断されると、癌細胞の広がりの程度で病気の進行度を分類します。正確に癌の広がりの程度を表す分類にTNM分類があります。
    Tはtumor(原発腫瘍の進展度)のT,Nはlymph node(リンパ節転移の有無)のN,Mはmetastasis(転移)のMを表し、各々の組み合わせにより病期(ステージ)が定められています。
    肺癌が肺の内にとどまっているI期から、全身に広がったIV期までに分類しています。
  8. 肺癌の治療(外科治療)

    肺癌の手術には標準手術、縮小手術、拡大手術があります。このうち標準手術は最も一般的な肺癌の手術法で肺葉切除と肺全摘術があり、系統的縦隔リンパ節郭清術を行います。
    肺は右が上中下の3葉、左が上下の2葉の肺葉に分かれています。この肺葉を葉単位で摘出するのが肺葉切除で1葉切除、2葉切除などといいます。片方の肺葉をすべて摘出するのが肺全摘術です。
    系統的縦隔リンパ節郭清は、片方の肺に付属するリンパ節をすべて取り出す方法で肺切除の後に行います。転移の可能性のあるリンパ節を取り除き、重要な病期の判定に必要です。
    縮小手術は肺葉より小さく肺を切除する方法で、肺区域切除、肺部分切除などがあります。肺は右は10区域、左は8区域に分かれています。
    例えば右上葉は3区域からなります。肺区域単位で行う肺切除を肺区域切除といいます。肺部分切除は、病巣を含む肺の一部分を切除する方法で、多くは胸腔鏡下手術( Video-Assisted Thoracoscopic Surgery: VATS )として内視鏡を用いて行われます。
    縮小手術は、肺切除量やリンパ節郭清が限られるため、高齢者や肺機能の低い患者さん、あるいは一部の微小癌などに対して行われます。
    標準手術の右上葉切除を例に説明します。全身麻酔が開始された後、患者さんは左側を下にした体位(左側臥位)をとります。腋窩切開では皮膚切開は、脇の下に約15〜20cm行います。皮膚切開や開胸の方法は施設によってさまざまで、最近では胸腔鏡併用などでなるべく小さく開胸する傾向になっています。
    開胸したらまず右上葉を周りの組織から分離します。炎症などで少し時間がかかることがあります。
    次に上葉の血管(肺静脈、肺動脈)を切断します。次に上葉の気管支を基部で切断し、上葉が切除されます。系統的縦隔リンパ節郭清術で気管、気管支、大血管周囲のリンパ節を郭清します。
    最後に、通常2本の管(ドレーン)を肺の上方と後方に置き、胸腔にたまる余分な空気や血液を排出し、閉胸します。
    これらのドレーンは経過が良好なら5日以内で抜去します。多くの方が術後10日目には退院可能です。
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  10. 治療の副作用

    肺癌手術後の合併症は、術前・術後管理の発達、術式の改良並びに麻酔法の進歩に伴い減少しつつあります。しかし、肺癌患者は他臓器癌に比べて高齢であることが多く、また、近年低肺機能患者にも手術適応が拡大されていることなどから、発症すると非常に重篤な転帰をとりやすく、最悪の場合、死に至ることがあります。このような観点から、術後合併症に対する予防と治療は重要な問題です。以下に代表的な術後合併症をあげ、その予防と治療について述べます。
    1. 閉塞性肺炎(主に痰の喀出障害により生じる肺炎)
      高齢・低肺機能、高度喫煙者の術後に生じやすく、主に痰の喀出障害により発生します。術前からの禁煙指導の徹底、トリフローなどによる肺理学療法などが術前予防として重要です。
      また術後喀痰の排出を促すため、去痰剤の投与、ネブライザー、タッピング、体位ドレナージなど積極的に行いなすが、時には自力喀出ができず気管支鏡による吸痰が必要となる場合があります。
    2. 肺瘻
      手術手技に基づく肺切離部または損傷部からの持続的な空気漏れのことで、主に癒着剥離部から発生します。
      肺手術後には必発といってもよく、通常術後7日以上持続した場合を病的な状態として扱います。術中の肺損傷部に対するフィブリン製剤の使用や切離の際の補填剤の使用はその予防法として非常に効果的です。
      さらには術後、肺瘻の閉鎖のためにミノマイシンやピシバニールの胸腔内投与による胸膜癒着術を行うこともあります。
    3. 気管支断端(術中に閉鎖した気管支断端に生じた小孔)
      術前治療(放射線療法・化学療法)を行ったのち、手術を施行した場合に発生しやすい傾向があります。
      主に断端の血流障害・過度の張力などの原因により、創傷治癒機転が阻害され、手術中に閉鎖された気管支断端に瘻孔が生じるものです。
      発症すると胸腔内に重篤な感染症を引き起こし(一般的に膿胸といいます)、瘻孔よりの空気漏れ、感染膿汁の吸引により、肺炎を併発し呼吸不全により致死的な転帰をとることがあります。
      治療は断端瘻と膿胸腔の閉鎖を目的に手術療法が主となります。
      また、術前に気管支断端瘻の発生が予測される場合には、予防的に胸・腹部の筋肉や脂肪組織などを気管支断端部に被覆することもあります。
    4. 反回神経麻痺
      手術操作に伴う反回神経の損傷により発生することが多い合併症です。
      また、時として癌の浸潤により反回神経を完全に切断せざるをえない場合もあり、術後の嗄声および誤嚥の原因となります。
      特に、誤嚥は肺炎を誘発することがありますので、反回神経の損傷が疑われるような場合、飲水開始時や食事摂取開始時には特に注意が必要です。
    5. 間質性肺炎の急性憎悪
      間質性肺炎(肺線維症)を合併した肺癌患者の術後に、間質性肺炎が急激に進行して呼吸不全を呈するもので、致死率が高い(80%以上)非常に重篤な合併症です。治療は人工呼吸器による厳重な呼吸管理とステロイド薬の大量投与が中心となります。
      発症した場合、救命するのが大変難しいため、術前に発症のリスクについて予測することが重要となります。そのため各種画像所見の詳細な検討、LDH,CRPの測定が一応の目安となります。
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転移性肺腫瘍について

  • 病理

    肺癌(原発性肺癌)が肺に発生した癌であるのに対し、転移性肺腫瘍は他の臓器に発生した悪性腫瘍が肺に転移したものを指します。そのほとんどは遠隔転移と呼ばれ、他臓器に存在する腫瘍細胞が血管内を血流に乗って肺まで運ばれ、根付き、増殖したものです。
    癌や肉腫などの悪性腫瘍は血管内に侵入し、数多く流れ出しており、そのごく一部が発育に条件のよい臓器で転移巣を形成すると推測されます。ちょうど蒔かれた植物の種が発育しやすい場所で発芽するのと似ています。

    肺に転移があれば、他の臓器にも転移している可能性を疑わなくてはなりません。
    肺の末梢(肺胞)では血管が細く枝分かれした後に毛細血管網となっているため、血流中の腫瘍細胞がちょうどフィルターに捕捉されるようにして着床し、転移巣を作ると考えられます。こうした解剖学上の構造から肺は転移を起こしやすい代表的な臓器となっています。
    したがって、肺転移巣の細胞の性質は肺癌の性質ではなく、転移元となった腫瘍の性質を受け継ぎます。

    たとえば、腎癌が肺に転移した場合、肺転移巣の性質は腎癌と同様と考えられます。これは転移性肺癌の治療を考える際に重要です。転移元の腫瘍の性質に合った治療を選ぶ必要があるからです。
    腫瘍細胞が血流に乗って運ばれることから、転移は血流の多い肺の下部(下葉)に起こりやすく、かつ複数個生じることが多くなります。胸部X線写真やCTなどの画像では境界の比較的はっきりした円形陰影を呈する場合が多く見られます。ごく稀に気管支壁に転移して気道を塞ぐこともあります。

    肺に転移しやすい腫瘍としては肺癌(肺から肺へ)、骨肉腫、腎癌、乳癌、甲状腺癌などが知られていますが、どんな悪性腫瘍でも肺に転移する可能性があります。

  • 治療

    病巣から採取した細胞や組織を病理学的に検討して、転移性肺腫瘍の確定診断を得ます。しかし、原発性肺癌と転移性肺癌の区別が困難なことも少なくありません。
    この場合は悪性腫瘍の既往歴や、転移巣の様子などから臨床的に判断します。治療は原発臓器の性質や転移個数などによって左右されるので、症例ごとに異なります。
    原発巣の腫瘍が完全に治療されており、肺以外に転移巣がなく、肺転移の個数が少数(数個)に留まり、肺機能に問題がなければ、外科的切除を行うこともあります。この場合、転移のある肺の部分を少し大きめに切り取る術式(楔状切除)が多く用いられますが、癌の転移では肺のリンパ節に転移をきたしている場合もあり、肺葉切除とリンパ節郭清を行うこともあります。肉腫の転移ではリンパ節転移はまれです。
    手術が適さない場合、転移元の腫瘍の性質を考えつつ抗腫瘍剤(抗がん剤)投与や放射線治療などを計画します。

医師紹介

職名 氏名 専門分野 所属学会 資格など
医長 辻 博治 呼吸器外科
一般外科
医学博士
日本外科学会認定医・専門医・指導医
日本胸部外科学会認定指導医・九州地方会評議員
日本呼吸器外科学会専門医・評議員
厚生労働省認定臨床研修指導医

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